●質問
彼氏に浮気されました。それが原因で仕事をしていても気持ちが落ち着きません。浮気される原因とは何なのでしょうか？　またその解決法はあるのでしょうか？

●回答
浮気の悩みはとてもつらいものです。信じていた相手から裏切られたと感じれば、心は大きく揺らぎ、仕事や日常生活に集中できなくなるのも当然です。
「私に何か足りなかったのだろうか」「愛されていないのではないか」――そんな思いが頭を離れず、ますます苦しくなります。
ここで役立つのが、フランスの精神分析家ジャック・ラカンの考え方です。ラカンは「人はみんな、心の奥に満たされない穴を抱えている」と言いました。恋愛の浮気問題も、この「穴」や「欠け」と深くつながっています。

1. 人はみんな「欠け」を抱えている
ラカンによれば、人は生まれた時から「完全に満たされることはない」存在です。
どれほど愛されても、どれほど大切にされても、「なにかが足りない」と感じるのが人間の宿命です。

恋愛とは、この「欠け」を一時的に埋める体験です。好きな人と一緒にいると、「自分は満たされている」「安心できる」と思えます。けれどその感覚は永遠には続きません。少しずつ薄れていき、やがてまた「もっと何かが欲しい」と感じるのです。

その時、別の相手に新しい刺激や承認を求めてしまうことがある。これが浮気という行動の背景にあります。
つまり、浮気の原因は「あなたに魅力がなかった」からではなく、「人は誰でも欠けを抱えている」という構造にあるのです。

2. 欲望は「他人を通して」しか存在しない
ラカンの有名な言葉に「欲望は他者の欲望である」というものがあります。
人は自分ひとりで欲望を持つのではなく、他人が欲しがるものを自分も欲しくなります。

恋愛に置き換えると、彼氏が浮気をする時、それは単純に「あなたに飽きた」からではありません。
むしろ「他の女性からも欲望されている自分」を確認したいからかもしれません。
誰かに選ばれることで、「自分はまだ価値がある」と感じたいのです。

これはもちろん裏切り行為であり、許しがたいことです。しかし同時に、浮気は「人間が自分の存在を確かめたい」という根源的な欲望から生じているとも言えます。

3. あなたの苦しみの正体
あなたが今一番つらいのは、彼の浮気そのものよりも、「自分はもう彼に欲望されていないのではないか」という不安です。ラカン的に言えば、あなたは「彼の欲望の対象から外れた」という感覚に直面しているのです。
それが心を深く傷つけ、仕事に集中できないほどの影響を与えています。

4. 解決法――「完全に満たされる」幻想を手放す
では、この苦しみをどう乗り越えたらいいのでしょうか。
ラカンの視点から言えば、解決の第一歩は「誰かに完全に満たされる」という幻想を手放すことです。

（1）自分の欠けを認める
「私は不完全だし、彼も不完全だ」と考えることです。不完全だからこそ人は他者に惹かれ、支え合おうとするのです。

（2）自分の欲望を大切にする
恋愛以外にも、自分の人生を満たすものを持つことが大切です。仕事、趣味、学び、友人との時間。自分自身の欲望を育てていけば、「彼に満たしてもらわなければ」という依存から解放されます。

（3）対話を恐れない
浮気をどう捉えるか、関係を続けるのか終えるのか。彼と率直に話し合うことは避けられません。ラカン的に言えば、「言葉にすること」そのものが心を癒す力を持っています。

5. ラカンが教えてくれること
ラカンの理論は難しく感じるかもしれませんが、恋愛に当てはめると意外にシンプルです。

A,人は誰でも欠けを抱えている。

B,欲望は他人を通じてしか存在しない。

だから浮気は「あなたが悪いから」ではなく、人間の構造的な問題。

この視点を持つだけで、自分を責めすぎる気持ちが少し楽になるはずです。

6. さらに前を向くために
ここで大切なのは、「浮気された」という出来事をどう自分の人生に位置づけるかです。
過去は変えられませんが、それを「私には魅力がない証拠」ととらえるか、「人間の普遍的な欲望の構造を経験した」ととらえるかで、未来は大きく変わります。

ラカン的に言えば、あなたは「欲望する存在」であり続けます。つまり、あなたの人生はまだまだ可能性に満ちているのです。
恋愛だけでなく、自分の欲望を自由に表現できる場所――例えば仕事での挑戦、趣味の探究、友人との時間――を増やしていけば、浮気の傷は新しいエネルギーに変わります。

また、浮気をされた経験を通して「相手に依存しすぎない関係の作り方」を学べるのも大きな収穫です。自分を大切にしつつ他者と向き合う。これができるようになると、次の恋愛はより自由で成熟したものになるでしょう。

いかがでしょうか。
浮気は「私が至らなかったから起きた」のではありません。
人は誰しも「欠け」を抱え、その欠けを埋めようとして迷い、時に過ちを犯す存在だからです。だからこそ大切なのは、「完全に満たされようとしない」スタンスを持つこと。自分の欠けを認め、自分の欲望を育て、必要なら彼と正面から対話すること。

その過程で、あなたは「浮気された自分」という傷を、新しい人生の一歩へと変えていけます。ラカンの言葉を借りれば、私たちは誰もが「欲望する存在」であり続ける。だからこそ、愛もまた、続いていくのです。