●質問
夜寝る前にふっと寂しくなって、私に言い寄ってくるお客さんと飲みに行ってもいいかなと思ってしまいます。でも彼氏に悪いので行きませんが。この夜寝る前のさみしさって何ですか？　めっちゃイヤです。

●回答
夜寝る前にふっと押し寄せる寂しさ。これは多くの人が経験する、とても人間的な感情です。
昼間は仕事や人との会話で気が紛れていても、夜ベッドに入って静かになると、急に心がスースーと空洞のようになり、誰かにそばにいてほしいと強く思ってしまう。時には、誘われている人と飲みに行けば楽になれるのではと考えてしまう。そんな自分に嫌気がさす――これこそ「夜の寂しさ」の典型です。

1. キルケゴールが言う「絶望」
デンマークの哲学者キルケゴールは、人間は誰しも「絶望」を抱えて生きていると語りました。ここでいう絶望とは、人生を投げ出すような強い感覚だけを意味するのではありません。「このままの自分でいいのだろうか」「なぜ私はこんなに満たされないのだろうか」といった、静かな不安や孤独感もまた「絶望」に含まれます。
夜の寂しさは、この「絶望」の日常的な現れです。人間は本来、自分だけでは満ち足りることができません。だからこそ、他者や社会、神や未来に向かって「つながり」を求め続ける存在なのです。

2. なぜ夜に強く出てくるのか
昼間は仕事や予定で埋め尽くされ、スマホやSNSが絶え間なく注意を引きます。
しかし夜は、それらが静まり返り、部屋の明かりが落ちて、自分ひとりと向き合わざるをえない時間になります。
キルケゴールの言葉でいえば、人間は「有限（いまの生活や身体や時間）」と「無限（未来の理想や可能性）」のあいだで揺れ動く存在です。
昼間は有限に縛られているので無限を忘れられますが、夜はその縛りが緩み、無限の問い――「私はこれでいいのか」「この先どうなるのか」が顔を出すのです。これが「寝る前の寂しさ」の正体です。

3. 寂しさとどう向き合うか
では、この嫌な寂しさをどう扱えばいいのでしょうか。

（1）寂しさを「悪者」にしない
「寂しい」と感じるのは弱さではなく、人間である証拠です。キルケゴールは、絶望を消そうとするのではなく、そこから本当の自分へ向かう契機を見いだすべきだと考えました。

（2）逃げないで受け止める
一時的に気を紛らわせる方法（飲みに行く、スマホを見る）もありますが、根本的には解決になりません。むしろ「今、私は寂しいんだな」とその感情を見つめることで、心は少しずつ落ち着きます。

（3）問いへと変える
寂しさを「いやな気持ち」として押さえ込むのではなく、「私は本当は何を求めているのだろう？」という問いに変えてみましょう。その問いこそが、あなたをより深い自己理解へ導いてくれます。

4. 恋愛との関係
あなたが「お客さんと飲みに行きたくなる」と思ってしまうのも自然なことです。寂しさを紛らわせるには、誰かの温もりや会話が最も手っ取り早いからです。
けれど同時に、「彼氏に悪い」と思って行動を止めているのは、あなたが誠実でありたいと願っている証拠でもあります。
キルケゴール的に言えば、あなたは「欲望に流される自分」と「倫理的に誠実でありたい自分」の間で引き裂かれているのです。
その緊張こそ、人間が生きる苦しみであり、同時に人間らしさでもあります。

5. 寂しさを味方につける工夫
夜の寂しさをまるごと消すことはできません。けれど、うまく付き合うことはできます。

・日記を書く
　今日感じたことを言葉にするだけで、もやもやは整理されます。

・読書や祈りの時間を持つ
　他者の言葉や物語に触れることで、「自分だけが寂しいのではない」と感じられます。

・小さな習慣をつくる
　寝る前にハーブティーを飲む、好きな音楽を聴くなど、心を落ち着ける習慣を持つと、寂しさは和らぎます。

6. キルケゴールからの励まし
キルケゴールは「絶望は、人が本当の自分になるために通らなければならない道だ」と言いました。つまり、夜の寂しさはあなたを壊すためではなく、むしろあなたが「どう生きたいのか」を深く考えるきっかけなのです。
寂しさを感じながらも誠実さを守っているあなたは、すでにそのプロセスを歩んでいます。
「寂しさはいやだ」と思う気持ち自体が、よりよく生きたいという欲望の現れなのです。

まとめ
夜寝る前の「ふっと寂しい気持ち」とは、キルケゴールが言う「人間が避けられない絶望」の日常的な姿です。
それは弱さではなく、人間である証拠です。寂しさを押さえ込むのではなく、その声に耳を澄ませると、「私は本当はどう生きたいのか」という問いが見えてきます。
その問いを大切にしながら、日々の小さな習慣や誠実な選択を積み重ねていくことで、寂しさはあなたを強くし、より豊かな人生へと導いてくれるはずです。